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第六話 永遠を誓う夜

Author: marimo
last update Last Updated: 2025-11-23 09:19:04

交際三年目の冬の夜。

 街には雪がちらちらと舞い、街灯の光に溶けながら静かに落ちていく。

 仕事帰りの人々が肩を寄せ合い、吐く息が白く染まっていく。

 通りにはクリスマスのイルミネーションが灯り、赤と金の光がショーウィンドウを照らしていた。

 幸せそうな笑い声、カップルの手のぬくもり、コートのポケットに忍ばせた手袋――そのどれもが、蓮には遠い世界のように思えた。

 黒いロングコートの襟を立て、蓮はひとり「CRYSTAL ROSE」と刻まれたネオンサインの前に立ち尽くしていた。

 高級感のある店のドア。その向こうには、かすかにピアノの音楽が流れている。

 冬の夜気が頬を刺すほど冷たいのに、胸の奥だけが熱く、そして痛いほど高鳴っていた。

 ――あの日。

 初めて玲と出会った夜のことを、彼は今も鮮明に覚えていた。

 あの夜も雪が降っていた。

 仕事のトラブルで心が荒んでいた彼に、差し出された一杯のウィスキーグラス。

 そして、「おひとりですか?」と笑った玲の笑顔。

 その優しさが、氷のように固まっていた彼の心を初めて溶かした。

 あれから三年。

 どんな日も、彼女の存在が支えだった。

 彼女のいない人生など、もう想像することすらできなかった。

 ――今日、終わらせよう、 この“恋人”という関係を。

 そして、新しい始まりを迎える。

 蓮は小さく息を吸い込み、手袋を外してドアノブに触れた。

 重厚な木の扉の重さが、現実を確かに知らせてくる。

 そのまま、静かに扉を押し開けた。

 ――次の瞬間、世界が光に包まれた。

 店内は、まるで夢の中のようだった。

 シャンデリアが天井から幾重にも輝きを放ち、床一面には赤いバラの花びら。

 白いキャンドルがテーブルに並び、その炎が淡く空気を揺らす。

 BGMには、玲の好きなピアノ曲――ショパンの《ノクターン第2番》。

 優しく、どこか切ない旋律が、空間を満たしていた。

 壁際には、玲の同僚たちが静かに並んでいた。

 皆、彼女のためにドレスアップし、笑顔で二人の瞬間を見守っている。

 その中心に、今夜の主役を待つ蓮が立っていた。

 ――この夜のために、彼は数ヶ月を費やした。

 玲の好きなバラの香りを調香師に依頼し、キャンドルの火加減までテストした。

 指輪は、彼女の手のサイズを彼女の同僚にそれとなく聞き出し、何度も職人に打ち合わせを重ねて選んだ。

 すべては、世界でいちばん美しい夜を贈るために。

 やがて、店の奥の扉が静かに開いた。

 時間が止まったかのような静寂。

 そこから現れたのは――玲だった。

 シャンパンゴールドのドレスが光を受け、きらきらと揺れる。

 少し緊張したように、けれどどこか照れくさそうに微笑んで。

 髪はゆるく巻かれ、耳元で揺れる蓮からプレゼントされたダイヤのピアスが、彼女の息づかいとともに輝いた。

 「蓮……どうしたの、これ……?」

 玲の声は震えていた。

 夢を見ているのかと思うほどの光景に、彼女の目が潤み、唇がかすかに震える。

 蓮はゆっくりと立ち上がった。

 そして玲の前まで歩み出ると、静かに片膝をついた。

 ――その瞬間。

 店内の照明が消え、スポットライトが2人を照らす。

 BGMも、周囲のざわめきも、すべてが遠くに消えていく。

 聞こえるのは、二人の鼓動だけ。

 キャンドルの炎がゆらめき、バラの香りがふわりと舞う。

 「玲」

 蓮の声は、低く、真っ直ぐだった。

 彼の瞳の奥には、確かな決意の光があった。

 「俺の妻になってくれ。一生、お前だけを愛し続ける」

 玲の呼吸が止まる。

 次の瞬間、彼の手の中の小さなベルベットの箱が、静かに開かれた。

 中にあるのは――五カラットのダイヤモンド。

 光を浴び、まるで星そのものを閉じ込めたように輝いている。

 玲の胸の奥で、何かが弾けた。

 温かいものが込み上げ、喉の奥が詰まる。

 ――夢じゃない。

 この人が、本気で、自分に永遠を誓ってくれている。

 「蓮……!」

 声が涙に溶けた。

 頬を伝う雫が、バラの花びらに落ちて消える。

 玲は震える手で彼の頬を包み、涙をぬぐうようにしながら言った。

 「はい……はい、喜んで……! 私でよければ、一生あなたのそばに……」

 その言葉を聞いた瞬間、蓮は彼女を強く抱きしめた。

 彼の腕の中に、玲の温もりが確かにあった。

 蓮の目から、一筋の涙が零れ落ちた。

 ――守るべき人が、ここにいる。

 周囲から自然と拍手が湧き上がった。

 「おめでとう、玲ちゃん!」

 「蓮さん、最高に素敵です!」

 玲の同僚たちは泣きながら笑い、シャンパンの栓が弾ける音が響いた。

 グラスが触れ合う音、花びらが舞い上がる。

 世界が二人を祝福していた。

 玲は蓮の胸に顔を埋めながら、笑った。

 涙の向こうで、光が滲む。

 あの頃、孤独を抱え、夜の店で微笑んでいた自分が――

 今、こんなにも愛されている。

marimo

大切な人を守るためなら、 危険な世界に踏み込む覚悟はできますか? 蓮の選択、あなたはどう思いましたか。

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